ジェットガール

ときどき書きます

アイドルマスター

レイト・バレンタイン

八月二十九日、晴れ。身体を押しつぶすような暑さはようやくなりをひそめ、時おり風が吹いて私たちを元気にさせる。けれど太陽はまだまだ満足できていないみたいに光を振りまいている。こんな季節に生まれた女の子が、どれほど元気で、優しくて、素敵か、私…

きざはし

きみは街を歩いている。穏やかな天候に時おり吹く風は涼しく爽やかで、きみは、気持ちのいい午後になったと思う。友人同士と思しき集団だとか、デートを楽しむカップルだとか、街ゆく人とときにはすれ違い、ときには同じ流れに乗りながら、きみはずんずん歩…

日没

窓から橙の強い光が差し込んで、気怠くソファに横たわる伊織の背中を濡らしている。ぼくはその横顔を眺めたまま押し黙って、彼女がテレビ番組のナレーションに小さく悪態をつくのを聞いていた。事務所の皆はそれぞれの仕事のために出払ってしまっていて、ぼ…

夜を走る光

萩原雪歩は仕事を終えて帰り支度を整えても、すぐに帰るわけではないようだった。バッグを肩に掛けいつでも外に出られる格好をしているのに、じっと立ったままでいる。事務所の共用の本棚に誰でも読めるように置かれているファッション雑誌をしばらくの間興…

ミーツ・アイドル

宴も半ばの居酒屋の座敷は雑然とした人の集まりで、多くが話に興じるなか、時おり立ちあがって別の相手を求めうろつく者もある。今日は中学校の同窓会で、つまり数年前の同じころを同じ教室で過ごしたぼくたちがぞろぞろと一つの店に顔を出し、覚えたての酒…

カーテンコール

拍手の音は鳴り止まず、袖へと消えた私の背中に追いすがる。私は楽屋に戻る前に、もう一度だけ後ろをふり返った。暗いステージの上には誰もおらず、あるじを失った舞台装置とスモークの残滓だけがぼんやりと浮かび上がっている。私がそこに立つことはもうな…

マイ・ガール

「ほら、できたわよ」 肩を軽く叩いて今日のお姫様を鏡の前に立たせると、そこに映る自分の姿を目にして、真が小さく息を呑む。 「わあ……本当に、こんな服着ちゃっていいのかな、ボク?」 体を左右に捻って自分の姿を確認しながらはしゃぐ様子に、そばに立つ…